おことわり
本稿は特定の政治団体・思想・信条を批判または賞賛するものではなく、著者は各種団体と一切関わりありません。カウンターカルチャーにおけるデザイン戦略を主題としたエントリーです。
SEADLsが解散するという
ぼく自身は彼らの思想や信条には否定も肯定もしないのだが、デザイナーとして仕事をしている者として、彼らのブランディングは非常に上手いなと感じている。彼らの活動がなぜ若者を中心とした大きなムーブメントになっていったのか?その要因の一つとして、デザイン戦略/ブランディングの醸成に非常に長けていた事が挙げられる。
SEALDsのデザインは「なんかイケてる」
とはいえ、デザインの善し悪しは個人の好みや価値観に大きく左右される故、そう思わない方もいらっしゃるだろう。しかし、本人に確固たる信念がある場合を除いて「ダサい政治団体」のデモに参加する者など居ない。
彼らの活動は、そのブランディング戦略によって政治に興味の無い若者達の関心を惹きつけ、国会を取り囲んでデモを行うなど、連日報道されるまでのムーブメントを起こした事はまぎれもない事実であり、これからの日本を担う世代に「無関心=悪」という価値観を植え付けた事は大きな功績であると考えられる。
しかしながら、彼らのデモに参加した若者のほとんどは「既存の体制に反旗をひるがえし、ひるむ事なく堂々と意見するオレ、イケてる」と考えて活動に参加していたはずだ。
言ってしまえば「ファッション感覚」なのだ。崇高な政治的信念を持ったメンバーは果たしてどれほどいだだろう?政治に関わらず、人々の興味を惹きつけるにはデザインによる視覚的要素がとても大きな意味を持つ。以下にその特徴を詳しく書いていく。
ロゴデザイン
彼らのロゴマークは盾がモチーフになっている「Students Emergency Action for Liberal Democracy – s」の頭文字を取ってSEALDsと名乗っているそうだが、本来の盾(シールド)の綴りは“Shield”である。単なるスペルの勘違いなのか、あえてなのかは定かではない。(まぁなんか学生ノリっぽいので目をつむろう。)
盾のモチーフは中世のヨーロッパの騎士団などの紋章がルーツになっている。戦場で味方と敵を区別する戦いの証だ。現在でもヨーロッパのサッカーチームなどのエンブレムなどに良く利用されているポピュラーなモチーフであり、「どっかで見た事ある」と感じた人も多いと思う。彼らのロゴには「メガホン・本・ペン・ヘッドフォン、そして真ん中に動画再生マーク」の5つのモチーフがあしらわれており、「何かソレっぽい」デザインではあるものの、今やこのシンボルマークを見ればSEALDsを連想する事ができる。ロゴデザインの重要な役割は視覚的に対象を連想させる事である。
では逆に、その他の政治団体、政党のロゴマークを思い出す事はできるだろうか?おそらくほとんどの方が思い出せないと思う。
そんな中、彼らは良くも悪くも「SEALDs=盾のロゴマーク」というイメージを浸透させる事に成功したと言える。引き合いに出して悪いが、「日本維新の会」のシンボルマークなんかめちゃくちゃにダサい。何だこれは。絶望しか無い。
出典:堺市議会議員 井関たかしの一言 : 日本維新の会ホームページ
このマークが背中にデカデカとプリントされたTシャツでデモに参加せよ!と言われても、正直困惑してしまうし電車に乗るのも辛い。これでは若者の支持を受けることは難しい。
デザインは生活にすんなりと溶け込まなくてはいけない。一連のムーブメントを見ればSEALDsのマークは、一定数の若者の指示を得たと言えるし、彼らにとってはあのマークを掲げ、戦う事がもはや「ファッション」なのである。
HPにはフラットデザインが採用されており、レスポンシブデザインで作られていてイマドキっぽい。スマホで見ても最適化されたデザインで見た目を損ねる事は無い。これまでの政治団体とは一線を画した洗練されたデザインだし、タイポグラフィに用いられる書体も野暮ったさが無く、シンプルで力強い。若々しい印象だ。
このようにSEALDsは優れたデザインを「入り口」として、これまで政治に無関心だった若者を取り込んで行った。
対抗文化=カウンターカルチャーに憧れる若者たち
カウンターカルチャーとは、既存の、あるいは主流の体制的な文化に対抗する文化(対抗文化)という意味である。
1960年代後半〜70年代前半にかけてよく使われた。狭義にはヒッピー文化や、1969年のウッドストックに代表されるような当時のロック音楽を差すものである。
ウッドストック・フェスティヴァルには、30組以上のロック・ミュージシャンなどが出演し、入場者は40万人以上であった。また、ベトナム戦争や公民権運動も、カウンターカルチャーに大きな影響を与えた。
その規模の大小はあるものの、いつの時代も現体制に対抗する若者達によって様々な文化が生みだされてきた。ヒッピー文化に代表されるように、音楽とも密接な関係がある。SEALDsがラップ調のアジテーションを行なうのにも、こうした背景があると考えられる。流行のリズムに乗せて主張する事で、若者に受け入れられやすいのだ。
国内のカウンターカルチャー
世界中のカウンターカルチャーの歴史を紐解いて行くと収集が付かないので、話を日本に絞る。
国内での代表的なカウンターカルチャーとして大きなムーブメントと言えば60年代に始まった「学生運動」が挙げられる。そして学生運動にも、デザインやファッションをはじめとする若者文化と密接な関係が見て取れる。
彼らは揃いのヘルメットにロゴデザインを施し、ゲバ文字と呼ばれる独特な書体(タイポグラフィ)のプラカードを掲げ、フォークソング(流行の音楽)に載せて反戦・平和を訴えた。[若者/デザイン/音楽]主張やその手法こそ違えど、SEALDsと学生運動との共通点は多い。
SEALDs=現代の学生運動と結論づけてしまうのはあまりに強引だが、これらの共通点を見る限り、カウンターカルチャーがとりわけデザインや音楽と言った文化と密接に関わっている事は明白だ。
まとめ
ムーブメントを起こすのにデザインのプライオリティは非常に高い。特に政治などの複雑で難解なテーマにおいては優れたデザインを施し格好良く見せ、参加のハードルを下げる事が効果的だ。SEALDsは解散してしまうが個人的にはデザインがかっこ良かったので少し残念に思う。
彼らの思想信条には正直全く興味が無いが、「なんかカッコ良く見える」のが興味深かったし、これからどういったデザインで世間に意見して行くのか興味深かった。
たしかに、SONIC YOUTHのデザインをまんまパクったあの一件はそのデザインや考えの浅さを全て含めて「クソダサい」としか言いようが無いが。
しかし、良くも悪くも世間に大いに注目をされ、身近に政治を考えるキッカケを与えてくれた若者達の熱意は評価したい。そして今後もこうしたカウンターカルチャーから優れたデザインが生み出させる事を期待して筆を置く。
《了》
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